境界層の遷移とは
物体の上に生じた境界層は始めは層流のまま発達していきますが、ある地点で乱流に遷移します。それぞれ層流境界層(Laminar boundary layer)、乱流境界層(Turbulent boundary layer)といいます。
遷移するときのレイノルズ数を臨界レイノルズ数(critical Reynolds number)といい、平板の臨界レイノルズ数は平板の長さを基準として約5.3×105です。
境界層の遷移に影響する要因
境界層の遷移にはレイノルズ数・表面荒さ・圧力勾配が影響します。
レイノルズ数が大きい流れや、物体の表面が荒いと境界層は乱流に遷移しやすくなります。負の圧力勾配のある流れでは遷移が抑制される効果があります。
詳しくはそれぞれのページをご覧ください。
レイノルズ数と遷移の関係
表面荒さと遷移の関係
圧力勾配と遷移の関係
層流境界層と乱流境界層
層流境界層の特徴
層流境界層では、流れは層状に流れているため上下方向のエネルギーの交換がありません。
上下方向のエネルギー交換がないため、乱流境界層に比べて剥離しやすいのが特徴です。一方、物体近傍の速度勾配は乱流境界層に比べて緩やかのため摩擦抵抗は小さいです。
境界層の剥離とは?
摩擦抵抗と速度勾配の関係(ニュートンの粘性法則)
乱流境界層の特徴
乱流境界層は、乱れによって時々刻々と流れの速度が変わるため平均した速度分布で表します。
流れの乱れにより境界層内の外側の速い流れと物体近傍の遅い流れが混ざるため、上下方向のエネルギーの交換があります。
エネルギーの交換によって流体は減速しにくくなるので、境界層は剥離しにくいです。一方、エネルギーの交換によって物体近傍まで速度が大きく速度勾配も急激になるので摩擦抵抗は大きいです。
層流境界層と乱流境界層の可視化動画
下の動画はアメリカのNCFMF(National Committee for Fluid Mechanics Films)によって作成された層流境界層と乱流境界層の流れを可視化した映像です。
実験では層流境界層(下)と乱流境界層(上)の流れの様子を可視化しています。
層流境界層(下)はどのタイミングでも同じ形の流れの様子(速度分布)が見て取れます。一方、乱流境界層(上)は流れる度に違う流れの様子(速度分布)になっていることが分かります。
層流境界層と乱流境界層の流れの様子(速度分布)を重ね合わせた映像です。
乱流境界層のいろんな形の速度分布をたくさん重ね合わせると、一定の形に近づいていく様子が分かります。これが乱流境界層の平均速度分布です。
まとめ
- 境界層は発達を続けると層流境界層から乱流境界層に遷移する。
- 層流境界層は、摩擦抵抗は小さいが剥離しやすい。
- 乱流境界層は、摩擦抵抗は大きいが剥離しにくい。
参考資料
- NASA-SP-367: Introduction to the aerodynamics of flight
- Fundamentals of Fluid Mechanics (Fourth Edition)
次の記事
次の記事では、境界層のもう一つの重要な現象である境界層の剥離について解説します。
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