この記事では、飛行機や鳥が空を飛ぶために必要な「揚力」の発生原理(仕組み)について、初心者の方向けになるべく簡単に、シンプルな原理原則に基づいて図解で解説します。
揚力の説明にベルヌーイの定理や循環、クッタの条件のような難しい用語は必要ありません。
揚力が発生する仕組みとても単純です。インターネットには間違った解説がたくさん出回っています。惑わされないようしっかり学んでいきましょう。
ケンブリッジ大学が公開している風洞実験動画
揚力の発生原理を説明する前に、実際の翼のまわりの空気の流れを見てみましょう。
上の動画はケンブリッジ大学が公開している風洞試験の動画です。上流(画面左)から煙を一緒に出すことで、翼のまわりの空気の流れを可視化しています。
空気の流れが翼のまわりを通過すると下向きに曲げられていることが観察できます。
この翼のまわりの空気の流れを例に揚力の発生原理(仕組み)を解説します。
揚力の発生原理(仕組み)
空気の流れが翼に沿って下向きに曲がる
空気には形状に沿って流れる性質があるので、翼の後縁(後ろの先端)が下を向いていると空気の流れが下向きに曲げられます。
空気を押し下げた反作用=揚力
翼は空気を下に押し下げているので、作用・反作用の法則で押し下げた空気の反作用で揚力が発生します。
このように揚力は空気の流れを下向きに曲げた反作用で発生します。
では、翼はどのようにして空気を押し下げた反作用を受け取っているのでしょうか?
空気の流れを曲げたときの流れの様子
空気の流れを曲げると圧力が変化する
曲がった流線の上を動く空気の粒子を考えます。
空気の粒子は力を受けなければ真っ直ぐに進みます。そのため流線に沿って流れるにはどこからか向心力(内向きの力)を受けなければ曲がれません。
空気のような流体の場合、流れが曲げられると曲がった流線の内側と外側に圧力差が発生し向心力が働きます。
具体的に試験映像から解説します。
流れを曲げたときの圧力の測定実験
この動画はアメリカのNCFMF(National Committee for Fluid Mechanics Films)によって作成された水の流れを曲げた時の圧力を測定している映像です。
試験の様子
圧力計測の様子
測定実験の解説
試験では、①・②・③の各計測場所で外側・中央・内側の3点の圧力が計測されています。
流れの曲がっている②では、曲がった流線の外側は圧力が高く内側は圧力が低いです。
- 曲がった流線の内側は圧力が低い
- 曲がった流線の外側は圧力が高い
それでは、翼の上面・下面の空気の流れで考えてみましょう。
翼の上面・下面の圧力差が発生する仕組み
翼上面の空気の流れ
翼上面では、空気の流れが下向きに曲げられます。
翼上面は曲がった流れの内側にあるので、翼上面では圧力が低下します。
曲がっている流線の内側は圧力が低い。
翼下面の空気の流れ
一方、翼の下面では空気は翼にぶつかって空気の流れが下向きに変わります。
翼下面は曲がった流れの外側にあるので、翼下面では圧力が上昇します。
曲がっている流線の外側は圧力が高い。
翼上面・下面の圧力差=揚力
空気の流れが下向きに曲がることで翼上面は圧力が低下し翼下面は圧力が上昇します。このように空気の流れを曲げた反作用は翼上面・下面の圧力差として翼に作用します。
まとめ
揚力は、翼が空気の流れを下向きに曲げたことによる反作用で発生します。また空気の流れを下向きに曲げると、翼上面と下面に圧力差が発生します。
揚力の発生原理の解説は「NASAのホームページ」にも記載されています。興味のある方はぜひご覧ください。翼表面の圧力については、ケンブリッジ大の人が書いた「How do wings work?」というPDFが分かりやすいです。
参考資料
- NASAのホームページ: Lift from flow turning
- How do wings work?: Holger Babinsky, University of Cambridge (PDFが開きます)
次の記事
飛行機の翼には揚力を発生させるだけでなく、空気抵抗を低減させる形状になっています。
次の記事では、いくつかの形状について空気抵抗を比較し、翼の特有の空気抵抗低減の仕組みについて解説します。
初めまして、揚力について少し教えてください。
翼(平面でも良いと思うが)が迎角によって空気流を曲げる反作用が揚力は分かります。
しかし、翼の上下圧力差が揚力であることは良く分かりません。
翼の空気流が剥離?する迎角(今回は+方向)をとると、翼上面はより低圧、翼下面は高圧となり
圧力差はより大きくなるのでは? そうすると揚力はどんどん大きくなるのでは?
圧力差は空気の流れを変えた結果では?
圧力差だけでは仕事は出来ないですよね?
コメントありがとうございます。
空気を曲げた結果、翼表面では圧力差として表れます。
空気を押し下げた運動量から揚力の大きさを計算しても、翼表面の圧力差から計算しても、同じ結果です。流体シミュレーションにおいても揚力計算の方法としてどちらも確立されています。
翼上面で剥離する場合、前縁で剥離すると剥離点以降は圧力低下しなくなります。(流れを下に曲げられない)
一方、翼の後縁から剥離すると、翼上面前方では低圧領域が維持されていますので、揚力は残っています。(すなわち流れを下向きに曲げている。)
前縁剥離では、一気に揚力がなくなり危険ですが、後縁剥離なら徐々に揚力が落ちていく、という違いがあり、後縁剥離の方が通常好まれます。(一気に失速して墜落しないので)
圧力差があれば物体(流体)は動くので仕事をしますよ。圧力の高い方から低い方に動きます。